私たちの生活に必要な食品や医薬品などを製造・生産するプラントですが、そこにはさまざまな人々が関わっており、その一つに「プラント設計」と呼ばれる設計士がいます。
言葉の通りプラントの設計図を作り、プラントの枠組みを決める重要な仕事ですが、具体的な仕事内容については知らないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、プラント設計の仕事内容や必要なスキルについて詳しく解説していきます。
そもそもプラントとは?
「植物(しょくぶつ)」という意味もあるプラントですが、建設業界では「生産設備(せいさんせつび)」という意味で使われます。
よく工場と同じ意味で使われることもありますが、工場の場合は設備は1つだけで、プラントは各機械や機器、配管など、複数の設備が組み合わさった施設のことをいいます。
食品から医薬品、エネルギーの生成まであらゆる製品を作り出すため、私たちの生活に欠かせない、とても大切な施設といえるでしょう。
一口にプラントと言ってもさまざまな種類がありますが、大きく「エネルギー系」「環境系」「化学系」の3種類に分類することができます。
産業系プラント(さんぎょうけいぷらんと)
産業系プラントとは、文字通り私たちの生活に利用する製品から、工業の材料となる素材などを製造するプラントのことをいいます。
製造例
- 食品プラント:肉製品、パン、調味料(ちょうみりょう)、飲料、たばこなどを生産するプラント
- 製薬(せいやく)プラント:原薬(げんやく)、治験薬(ちけんやく)、注射剤(ちゅうしゃざい)などの医薬品を生産するプラント
- 製鉄(せいてつ)プラント:ステンレス鋼(すてんれすこう)、チタン材などを製造するプラント
- セメントプラント:コンクリートを生産するプラントのこと
環境系プラント(かんきょうけいぷらんと)
環境系プラントとは、廃棄物(はいきぶつ)を処理して再利用できる資源に加工したり、焼却熱(しょうきゃくねつ)を利用した発電を行うプラントのこと。
身近なものでは、食品廃棄物処理施設(しょくひんはいきぶつしょりしせつ)や廃プラスチック処理施設、溶融炉(ようゆうろ)などの「廃棄物処理場(はいきぶつしょりじょう)」、下水道(げすいどう)の汚水を浄化して河川や海へ放流する「下水処理場(げすいしょりじょう)」などが、環境プラントとして挙げられます。
石油化学系プラント(せきゆかがくけいぷらんと)
石油化学系プラントとは、原油を精製してガソリンやLPガス、灯油などを作ったり、プラスチックやナイロン、ゴムなどのたくさんの石油化学製品を製造したりするプラントのことを指します。
化学プラントもここに属しており、上記のように石油・天然ガスを原料に製造を行う「有機化学プラント(ゆうきかがくぷらんと)」と、苛性ソーダ(かせいそーだ)や塩素(ええんそ)、アンモニアなどを製造する「無機化学プラント(むきかがくぷらんと)」の2種類に分けられます。
プラント設計とは?
プラントの基本がわかったところで、「プラント設計」とはどのような仕事なのかを詳しくみていきましょう。
プラント設計の仕事は、大きく「基本設計」と「詳細設計」の2つがあり、内容や求められる能力も若干異なります。
基本設計
基本設計とは、取引先の発注内容や条件を満たしつつ、プラントの動作をスムーズにするために、必要な設備や作業員の配置計画を行う業務です。
かんたんにいうと「プラント全体の大枠を決める設計」といえばわかりやすくなるでしょうか。
工場内にはさまざまな設備が必要ですが、例えば建物内に必要なボイラーや焼却炉の配置、ベルトコンベアや運搬車などの動きや流れ、工場内の道路など、仕事内容はたくさんあります。
大枠を決める作業になるため、全体をみることができる力や取引先に対しての提案力、コミュニケーション力なども求められる業務です。
詳細設計
一方で詳細設計とは、基本設計を決めた後に行う、より細かい部分を決めていく建築設計のことを指します。
実施設計(じっしせっけい)とも呼ばれ、実際に機械設備が順調に稼働して製造ラインがスムーズに流れるために何が必要か。それぞれの性能や使い勝手、作業員の配置といった詳細を詰めていく作業になります。
詳細設計では、建築やプラントに関する高度な技術はもちろん、機械・システム・衛生・化学など、さまざまな分野の専門知識が求められます。
プラント設計の仕事に就くメリット
続いて、プラント設計の仕事に就くメリット、やりがいをみていきましょう。
平均年収が高い
さまざまな専門知識が必要なプラント設計は希少性も高く、平均年収は489〜700万円ほどで、管理職となると1,000万円を超える人も少なくありません。
日本の平均年収は403万円ですから、この数値がいかに高い水準かがわかるかと思います。
自分の能力を発揮できるだけでなく、しっかりと収入に反映することができる点も、プラント設計に就くメリットといえるでしょう。
(参考:プラント設計の仕事の平均年収|求人ボックス)
(参考:年齢・年代別に見る日本の平均年収(平均年収ランキング最新版) |doda(デューダ))
環境面の壁が少ない
プラント=海外のイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
実際、日本のプラント設計市場は、日本の高い技術力を活かせる、かつ今後の発展が予想される東南アジアへの進出を目指す企業も多いです。
そのため、語学や環境面の壁がない外国人労働者にとっては、現在のプラント業界の傾向は大きなチャンスといえるでしょう。
現に、海外から採用して育成期間を設け、日本語教育と技術指導をされている企業もあります。
大規模な仕事に携われる
これまでの解説でもわかるように、プラント設計の仕事は他と比べて大規模なプロジェクトになるケースが多く、受注金額も大きくなります。
プラントにもよりますが、仕事を受注してから完成するまで3年以上、数千億規模になるケースもあります。
これだけの規模となると、普通の人ではなかなか経験することはありませんし、完成した際の達成感も一際大きいものとなるでしょう。
また、プラントは一度完成すると何十年も残ることになるため、自身の功績が後世まで残る可能性が高いです。
プラント設計に求められるスキルと将来性について
最後に、プラント設計の仕事に興味を持っている方に向けて、プラント設計に求められるスキルや将来性について解説していきます。
求められるスキル
基本設計と詳細設計で違いはありますが、プラント設計の仕事では基本となる設計のスキルはもちろん、機械や電気、化学といった工学系全般、衛生面からシステムまで幅広いジャンルの知識・スキルが求められます。
さらに、取引先の人たちとの打ち合わせや会議をする機会も多いため、コミュニケーション能力も必要なスキルの一つといえるでしょう。
他には、海外でのプロジェクトに参画するために必要な英語をはじめとする語学力、致命的なミスを防ぐための注意力、問題が起こった場合の解決能力なども身につけておきたいスキルです。
反対に日本のプラント業界で働きたいと考えている外国人の方は、少なからず日本語を身につける必要がありますし、実際に働いている方にも日本語能力試験N2やもっとも難易度が高いN1を取得している方も多くいます。
コミュニケーション能力はプラント設計に求められる重要なスキルですし、採用に影響する企業もありますので、興味がある方は一度挑戦してみてはいかがでしょうか。
(参考:日本語能力試験 JLPT)
プラント設計の将来性
プラント業界は、2015年以降世界的な金融情勢の不安や感染症の影響、原油価格の下落などの理由から求人ニーズは停滞気味でした。
これまでのプラントの老朽化が進み、建て直しが進められる可能性はあるものの、現在はプラントの改修やメンテナンスがメインで、日本のプラント業界は落ち着いているといってもよいでしょう。
一方で、東南アジアや中東といった諸国ではプラント建設の需要が高く、新規プラントがどんどん作られており、競争力を高めるために海外進出を目指す日本企業もたくさんあります。
また、SDGsをはじめとした地球環境対策も追い風となり、再生エネルギーの活用、AIやIoTなどのデジタル技術を駆使した新規プラントの新設など、これからますます需要が増えていく可能性も十分にあります。
まとめ
今回は、プラント設計の仕事内容や求められる知識・スキルについて解説してきました。
日本でのプラント事業ですが、私たちの生活を支える重要な施設であり、海外での勤務に興味がある方はもちろん、外国人労働者にとっても大きなチャンスがある市場といえるでしょう。
高度な専門知識を身につけるのはかんたんではありませんが、興味がある方はぜひ、プラント設計士としてスケールの大きい仕事をしたい方にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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